飲酒にまつわる8の神話


「二日酔いにはカフェインが効く」みたいなものから「こうすればアルコール検知器をごまかせる」まで、飲酒に関してはたくさんの「神話」が入り乱れています。安心してお酒を楽しめるように、間違った情報のいくつかを訂正しておきましょう。


           

神話その1:カフェイン(またはシャワー)で酔いを覚ませる


「飲み過ぎたあと、少しでも早く酔いを覚まさなければならない」...こんな状況に陥ったことは、誰にだってあるでしょう。そんな時、周りの人から「自分にはこの方法が効いたよ!」とオススメされることもありますよね。ほとんどの場合、それは「コーヒーを飲めば酔いを覚ませる」ではないでしょうか。あるいは、「冷たいシャワーを浴びる」かもしれません。でも残念ながら、どちらも酔い覚ましには効かないのです。

コーヒーの摂取でアルコールによる眠気に対抗できることは、いくつかの研究から明らかになっていますが、酔いを早く覚ます効果はありません。酔いを覚ますには、アルコールを分解しなくてはいけませんが、このプロセスはスピードアップできないのです。米テンプル大学のThomas Gould博士は、BBCのインタビューに対して次のように答えています。


コーヒーの酔い覚まし効果に関する誤解を解くことが特に重要なのは、カフェインとアルコールを同時に摂取すれば、実際には判断力の低下につながり、悲惨な結果をもたらすことも多いからです。

アルコールを摂取した後で、だるさやぼんやり感を覚えたら、酔っていることを自覚しやすいはずです。ところが、アルコールとカフェインを同時に摂取した人は、自分は目が覚めていて、危険性をはらんだ状況にもうまく対処できると誤認してしまいがちです。それで飲酒運転をしたり、危ない人間関係に身を任せたりしてしまうのです。


同様に、一部の食べ物にも、体内でのアルコール吸収効果を若干高める働きがないわけではありませんが、そのためには、その食べ物を先に胃の中に入れておく必要があります。

ですから、急いで酔いを覚まさなくてはならない時は、コーヒーは飲まずにお酒が抜けるのを待ちましょう。


神話その2:飲酒で脳細胞が死ぬ


アルコールは身体にさまざまな悪影響を与えますが、アルコールのせいで脳細胞が死ぬわけではありません。ただし、この数年で、「アルコールは脳細胞を殺すわけではないが、脳の機能に影響を与える」という研究結果がいくつか発表されています。米紙『ニューヨーク・タイムズ』に、研究内容がわかりやすく説明されています。


アルコールは、小脳のニューロンのうち、情報伝達を担う樹状突起という部位を傷つけ、脳の機能を阻害します。樹状突起は、学習や運動機能に関わる器官です。損傷により、ニューロン間のやりとりが減少したり、構造が変化したり、酩酊に伴ういくつかの機能低下が生じたりします。ただし、細胞全体が死滅することはありません。


つまり、大量のアルコールを摂取すると、脳の機能(記憶など)を損なうことがあります。ただしその理由は、脳細胞が死滅するからではなく、ニューロンが本来の伝達機能を果たせなくなるからなのです。このダメージは、いわば、毎日の通勤経路に落とし穴ができたようなものです。仕事に通えないわけではありませんが、余計な時間がかかってしまいます。


神話その3:お酒の「ちゃんぽん」は酔いが回りやすい


「今夜は出かけて、一晩中飲む」という予定の時は、お酒をちゃんぽんするなと助言されることが多いでしょう。つまり、ビールで始めたらビールだけ、ウィスキーで始めたらウィスキーだけ、といった具合です。ところが、いろいろな種類のお酒をまぜこぜに飲んでも、一晩を通して見れば、酔いかたには影響しないのです。米ニューヨーク大学医学部のRoshini Rajapaksa医師(消化器病学)は『ニューヨーク・タイムズ』に対し、肝心なのは飲酒量だと語っています。


Rajapaksa博士によれば、肝心なのはアルコールの摂取量と、食べ物と一緒に飲んでいたかどうかです。何かを食べながら飲むと、アルコールの吸収速度が遅くなり、吐き気を抑える効果が期待できるのです。

つまり、組み合わせよりも、トータルでどれだけ飲んだかが、酔いと吐き気の度合いに影響するのです。


考えてみれば、当たり前のことです。酔いかたに影響するのは、まずアルコールの摂取量であって、順番は問題ではないのです。

とは言え、「リカー(蒸留酒)の前にビール(醸造酒)を飲むと悪酔いする」という古い諺も、それなりに筋は通っています。これは、化学的要素よりも心理学的要素が大きく働いています。米Gizmodoの記事の中で、テキサス大学のRueben Gonzales博士(薬理学および毒物学)は、次のように説明しています。


つまり、最初にビールから飲み始めて、その後いろいろなお酒を同じペースで飲んでいくのは、最初はゆっくりドライブしていたのが、徐々にアクセルを踏み込んでいくのと同じことです。飲んでいる時はアルコール度数の違いに気づかないでしょうが、身体は正直に反応します。逆に、最初にきつめのリカーから飲み始めると、飲むペースが遅くなり、かつ酔いは早く回るように感じるでしょう。後でビールに変えても同じペースで飲んでいけば、結果的に同じ時間で口にするアルコール量が減るはずです。


つまり、お酒の種類は好きなだけ取り替えても構わないのです。ただし、ビールからリカーに変える場合は、意識して飲むペースを抑えることが大事です。


神話その4:ひとたび「封印」を解くと、トイレは近くなる


言い伝えによれば、飲酒している時に一旦トイレに立つと、魔法の「封印」が解かれ、その後も何度もおしっこに行くハメになるそうです。むろん、そんな封印は実在しません。それに、トイレに行く回数が増えても、おしっこの量が増えるわけではありませんし、トイレを我慢しても量が減るわけではありません。

封印は迷信ですが、アルコールの摂取で普段よりもトイレの回数が増えるのは間違いありません。「NBCニュース」が、その理由を解説しています。


アルコールを摂取すると、バソプレッシンと呼ばれる抗利尿ホルモン(ADH)の作用が抑えられます。ADHは脳下垂体から放出され、腎臓内の水分量を調整しています。

「アルコールは単に、通常のバソプレッシンの放出をブロックするだけです(中略)。バソプレッシンは、腎臓内の水分を再吸収させて、身体のほかの部分へ戻しています。バソプレッシンの放出がブロックされれば、水は腎臓から身体の外に出ていってしまいます」と、シカゴ大学医療センターで麻酔および救命救急診療を専門とするJames Zacny博士は説明しています。

(中略)飲酒中は、ADHの放出が減少し、尿の生成量が増加するのです(後略)。お酒を飲む時は、いつもより多くの水分を摂取することになります。これに加えて、再吸収されなかった水分が直接膀胱に送り込まれることを考えれば、普段よりも頻繁に尿意を催すのは不思議ではありません。飲酒を始めるたびに、身体はこの不快なループに陥ることになるのです(後略)。


飲酒をするといつもよりトイレに立つ回数が増えてしまうのは、こういうわけです。封印が解かれたわけではないのです。


神話その5:1時間に1杯程度のお酒なら、大したことないから運転しても大丈夫


「後で運転する必要があるとしても、1時間に1杯までならお酒を飲んでも大丈夫」なんてそそのかされたこと、ありませんか? この主張の根拠は、人間の身体は1時間に1杯程度のペースでアルコールを処理するので、このペースを守れば、運転できないほど酔っぱらうことはない、というものです。

もちろん、アルコールを処理するペースは人によって違うので、単純化はできません。とはいえ、平均的な数値はとてもシンプルです。米国立アルコール乱用依存症研究所のケネス・ウォレン所長代理が、米ニュースサイト「ハフィントンポスト
」の取材に対し、次のように説明しています。


平均的なアルコールの分解スピードは、1時間につき体重1kgあたり100mgです。体重70kgの標準的な男性の場合、1時間あたりのアルコール分解量は7gとなります。ところが、普通に「1杯」と言うときに指す、12オンス(約355ml)のビール瓶1本には、14gのアルコールが含まれているので、完全に分解されるまでには2時間必要になります。ほとんどの人にとって、1時間あたり1本のペースでお酒を飲んでいると、どんどん運転には適さない状態になっていきます。


つまり、アルコールの分解スピードには個人差があるものの、たいていの場合、「1時間に1本」のルールは当てはまらないのです。とにもかくにも、運転することがわかっているなら飲酒をしないのが賢い選択です。


神話その6:アルコール検知器なんてだませる


アルコール検知器をごまかす方法については、いろいろな迷信を耳にすることでしょう。よく知られたものとしては、1セント硬貨を舐めるとか、口臭予防ミントキャンディーを食べるとか、過去には下着を食べるなんて方法を試した猛者もいるそうです。こういった迷信はいずれも、アルコール検知器が臭いを探知するものと誤解しているようですが、実際の仕組みは違います。

簡単に説明すると、アルコール検知器では、化学反応を利用して呼気からアルコールを分離し、それを別の化合物と反応させます。この化学反応のおかげで、息を吹きかけるだけで血中アルコール濃度を計測できるのです。息の臭いなどには何の反応もしないので、ミントなどを使ってアルコールの臭いを隠したとしても意味がないのです。

この件についての正式な研究を見つけることはできませんでしたが、テレビ番組の『怪しい伝説』(原題:Mythbusters)や『Manswers』でも、この話題を以前に取り上げています。どちらの番組でも、こうした悪知恵はアルコール検知器には効かないという結論に至っています。しかも、アメリカの警察は、まず口の中を調べて、テストの結果に影響するものが入っていないかを確認します。それに、飲酒運転が疑われるのにアルコール検知器に反応がない場合、警察はドライバーを署まで連行し、血液検査によって血中アルコール濃度を確認する権限があります。

とはいえ、ある研究によると、呼吸のパターンによっては結果が左右される可能性もあるようです。例えば、呼吸を早くすることで血中アルコール濃度が低めに出ることもあります。ですが、この方法で下げられる血中アルコール濃度は、どんなに頑張ったところでたかだか10%程度。過呼吸で頭がクラクラするでしょうし、警官は間違いなくその様子に気がつくでしょう。

そもそもの問題として、アルコール検知器をごまかさなくてはならないほど酔っぱらっている時は、運転すべきではないのです。飲酒運転はやめましょう。


神話その7:お酒の種類で振る舞い方が変わってくる


ウィスキーでけんか早くなり、テキーラで踊りだし、ラムでリラックスする...。こんな話を一度は耳にしたことがありませんか? 「これを飲むとこんな気分になる」みたいな話はあちこちに出回っています。

こうした主張にまともに取り組んだ研究は見つけられませんでしたが、純粋に成分を見比べた場合、お酒の種類が血中アルコール濃度に影響するとは思えません。基本的に、酔っぱらうかどうかに、それまでの過程は大して関係ありません。アルコール医療審議会の医療ディレクターを務めるGuy Ratcliffe博士は英紙『ガーディアン』のインタビューに対し、次のように述べています。


アルコールの影響は、それがどのお酒に由来するかに関わらず、どれも似たようなものです(中略)。違いは、お酒を飲むペースと量によります。アルコールは単純な構造の分子で、血中にすばやく吸収されます。ですから、強いお酒を短時間に何杯も飲んだなら、血中アルコール濃度はすぐに上昇します。たいていのスピリッツ類はアルコール含有量が40%もありますから。


この神話は、心理的、社会的な側面が強いものでしょう。通常、お酒の種類によって飲むペースは違ってきますし、特定のお酒を飲んだらどうなるかについても、人によってイメージが違います。ブログサイト「io9」で指摘されているように、アルコールへの反応は、もともとのイメージによって変わってきます。過去の研究動向をまとめた2006年の論文にも、同様の説明があります。


アルコールの運動機能と認識機能への影響に関する複数の研究から明らかになったのは、アルコールに対する反応の個人差は、その人が飲酒の効果をどのように予想しているかと、深く関係するということです。一般に、機能低下をほとんど予想していなかった人は、飲酒による実際の機能低下も少なく、大幅な機能低下を予想していた人は実際の機能低下も大きくなりました。さらに、(アルコールの代わりに)プラシーボ(偽薬)を与えた際にも、同じような反応が認められました。


つまり、化学的観点から言えば、飲むお酒の種類はおそらく行動には影響しないはずですが、脳は影響を受けている可能性があります。


神話その8:二日酔いを治すには、えび(または緑茶、コーヒー、「迎え酒」...)が効く

誰でも、自分なりの二日酔い対処法があるでしょう。人生の先輩たちから、「熱いシャワーとコーヒー」だとか「卵を乗せたトーストにたっぷりホットソースをかけて食べる」とかの方法を勧められたこともあるでしょう。こうしたほとんどの「治療法」はインチキですが、でも不思議なことに、二日酔いに対するベストな対処法が何なのかは、まだよくわかっていないのです。実際、さまざまな研究論文を見比べてわかった結論は、「二日酔いの予防や対処のための唯一の現実的な方法は、飲酒を控えること」だったそうです。では、二日酔い対策として科学的に勧められているさまざまな方法を見てみましょう。

  • :アルコールには利尿作用があり、おしっこをするたびに水分が失われてしまいます。そのため、翌日に水を飲めば水分バランスが正常値に戻りやすくなり、脱水症状による頭痛などの緩和が期待できます。頭痛に関しては、アスピリンイブプロフェンといった非ステロイド系の抗炎症薬でも症状を抑えられます。

  • フルクトースを含む食べ物:フルクトース(果糖)はエネルギー源となるし、毒素を体外に排出する効果も期待できます。ある研究では、こうしてエネルギーを上昇させると、二日酔いの持続期間を縮められる可能性があると指摘していますが、その効果が実際どの程度なのかははっきりしていません。
  • 複合炭水化物を含む食べ物ある文献調査では、複合炭水化物を含む食べ物(トーストやクラッカーなど)には、下がりすぎた血糖値を安定させることで、吐き気を和らげる効果があると結論づけています。その一方で、スミソニアン博物館の発行する雑誌『Smithsonian Magazine』は、タムズ(Tums)やペプトビスモル(Pepto-Bismol)のような胸やけ用胃薬にも同じような作用があると指摘しています。

  • 血中アセトアルデヒド濃度を下げる:学会誌『Food & Function』に最近発表された研究では、二日酔いを引き起こす主な原因は、アルコールデヒドロゲナーゼという酵素だと指摘しています。この酵素は肝臓から放出され、アルコールをアセトアルデヒドという別の化学物質に変換します。この研究チームは、アセトアルデヒドが体内にとどまる時間を短くすると、二日酔いが和らぐことを発見しました。また、これを実現するもっとも優れた方法は、スプライトを飲むことだとも指摘しています。もちろん、まだ研究が必要なようですが。

はっきりと言えるのは、私たちは二日酔いの対処法の決定版をまだ見つけられていないし、現段階では問題の解決に直結するような研究も、ほとんどされていないということです。上述したほとんどの方法は、小規模な研究から導かれたものであり、再現実験もされていません。「Wired」の記事によると、水が効くといった直感的なアイデアでさえ、議論の余地があるのだそうです(ある研究も、この指摘を裏づけています)。


例えば、脱水症状(が二日酔いの原因だという説)。理にかなっている気がしますね。普段は抗利尿ホルモンのバソプレッシンが、排尿の回数をコントロールしてくれていますが、アルコールはこのバソプレッシンのはたらきを抑制してしまいます。それに、お酒をたくさん飲む時は、水分はあまり摂っていないかもしれません。ですが、二日酔いで脱水症状になっている人を調べても、電解質濃度は通常の値からそれほどかけ離れてはいないのです。中には、電解質濃度が普段と大きく違った値になる人もいますが、そのことと二日酔いのひどさには、相関関係がありません。


では、この神話の真偽はどうなるのでしょうか? 今のところ、まだ判断できないようですね。二日酔いの仕組みについては、科学の力でもまだわからないことだらけなのです。

いずれにしても、適量の水と炭水化物を摂るぶんには、状況を悪化させることはないようです。だから当面は、今自分に効果がある方法に頼るのがベストです。そして、「二日酔いはもうこりごり」と思うなら、お酒は少し控えめにしましょう。


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